If you can dream it, you can do it.

It always seems impossible until it’s done.

松浦邦男先生を偲んで[照明学会誌 Vol.104 No.3(2020)]

2019年9月18日に、照明学会副会長を務められた松浦邦男先生がご逝去されました。享年92歳でした。
松浦先生は1927年に大阪で誕生され、京都大学工学部建築学科から大学院へ進学後、京都大学工学部講師、同・助教授を経て、同・教授に昇任されました。1990年に定年退官され、同年京都大学名誉教授の称号を授与されました。
先生は京都大学建築学教室で前田敏男先生に師事し、建築環境工学の光環境(照明)の研究にご尽力されました。その主なご業績を以下に紹介します。先生のご業績は、「オーラルヒストリー松浦邦男名誉会員−光環境工学分野の先駆的研究とその発展の歩み−」(照明学会誌第94巻第1号, 2010)に詳しく紹介されていますので、そちらも参照ください。

最初のご業績は、室内各面での相互反射を考慮した照度計算における相互反射積分方程式の近似数値解法の構築が挙げられます。
コンピュータが一般的でなかった時代に、手計算で解き得る多元一次連立方程式による実用的計算法を示されました。
無限平行平面間の相互反射式と開口面の等価反射率を用いた作業面切断公式は、室内の作業面高さでの平均間接照度を簡易に計算する方法として今日でも有用です。

次に、材料の反射指向特性の測定とそれに基づく室内表面の輝度分布予測の研究があります。
材料表面での光の反射を表皮反射と層内反射に分け、偏光を用いてそれぞれの反射指向特性を分離して測定する方法を考案されました。
その後、反射指向特性を数式モデル化し、均等拡散でない表面を持つ室内の輝度計算方法を開発されました。
輝度設計は道路など一部の分野で用いられているものの、オフィスなど多くの分野では現在でも照度設計が一般的です。
輝度分布を予測して照明設計に活用する試みは、時代を先取りする先駆的な研究でした。

また、天空輝度分布のモデル化や建築物の採光設計など昼光照明の研究にも尽力されました。
中間天空における輝度分布のモデル化に関しては、CIE (国際照明委員会)での活動と連携しながら研究を進め、この研究をベースにして、2004年に「天空輝度分布・CIE標準一般天空」(ISO15469/ CIES011/E)がCIE標準としてまとめられています。

さらに、これらを組み合わせた研究として、全天候条件下の昼光計算と開閉式膜構造ドーム内の光環境予測があります。
日時・天候・方位に応じた天空輝度分布と太陽直射照度、ドームのような曲面を持った建築形状の近似、建築内部の昼光と人工光による全照度、視野内の輝度分布および物体の輝度対比の理論的計算から構成されています。
この研究は当時の松浦研究室の総力を結集したものであり、筆者も微力ながら、室内実験によるドーム内の飛球の見え方を予測する研究を行い、修士論文にまとめました。松浦先生からは海外の研究者の研究を踏まえてどのような実験を行ったらよいかを丁寧にご指導頂いた記憶があります。
また、研究の指導以外のプライベートでも研究室で海水浴に行くなど積極的にコミュニケーションを取られ、先生はいつも学生たちと穏やかに接しておられました。

本稿では筆者が松浦先生のご業績を紹介させて頂きましたが、本来は京都大学の故上谷芳昭先生がその適任者であり、もっと深い内容を書いて頂けたはずです。
松浦先生の指導を最も多く受け、その思想を受け継がれた上谷先生が、上記のドーム内の光環境予測においてリーダーとしてチームをまとめながら、黙々とプログラムを組んでおられた姿はまさに研究者の鑑でした。
残念ながら上谷先生が2016年に亡くなられたために、松浦研究室の末席を汚す筆者にお鉢が回ってきたわけですが、筆者は松浦先生が京都大学を退官される年に修士課程を修了するという最後の弟子であり、さらに社会人になってからの博士課程では上谷先生の指導を受けました。
その際、松浦先生から引き継がれている思想として、上谷先生に教わったことを紹介させて頂きます。

筆者が偏見から、博士課程の研究としては、照明設計の簡易化より、多少現実的でなくても複雑化の方が適当なのではとの疑問を呈したところ、自動車の自動運転を例に出されて次のようにおっしゃいました。
「自動運転では運転者は利便性が高まったことだけしか認識しないが、実はその裏には非常に高度な研究が内在している。今後研究予定の、照明の専門家でない建築設計者が簡易に使用できる新しい照明設計法も同様であり、背後に高度な研究が内在していることが必要で、使用者はそのことを気にしなくてもきちんとした設計ができなければならない。」

筆者の研究結果としての照明設計法(単位光束法)がそのようになっているかどうかは棚上げするとして、この考え方は研究のための研究ではなく、研究と実務はつながっているという視点を常に持ち続けるようにという戒めであると肝に銘じています。
建築環境工学の基盤形成に多大な功績を残された松浦邦男先生に感謝申しあげ、心からご冥福をお祈り申し上げます。

名誉会員 松浦 邦男(まつうら くにお)先生
1927(昭和2)年3月21日生まれ

学職歴
1955年 京都大学工学部建築学科講師
1956年 京都大学工学部建築学科助教授
1965年 京都大学工学部教授
1990年 摂南大学工学部教授
1994年 宝塚造形芸術大学造形学部教授

主な団体歴
1981年 照明学会 副会長
1983年 日本照明委員会 副会長
1984年 日本建築学会 理事

主な表彰歴
1980年 照明学会賞
1987年 日本照明賞
1993年 照明学会論文賞
1995年 CIE Award
2006年 日本建築学会大賞
2007年 瑞宝中綬賞



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